『はぁーい!!128回目きました!
モテモテですねっ!羽崎十哉くん!
前にどうぞ!』


進まない足に鞭をうって
なんとか、舞台上に歩み出る。


彼女に近づくたびに
嫌な予感が増す。


前まできたとき、帽子に隠れた彼女の素顔が見えた。




嫌な予感的中。




彼女はにっこりと口元に笑みを浮かべ
ゆっくりと口を開いた。



「昨日振りね。羽崎十哉くん。」

「な、んで、あんたが…」



俺の前に立っていたのは
昨日、断った事務所の若きプロデューサー
だった。



「まさか、
私が簡単に諦めるとでもおもった?」


俺にしか聞こえない小さな声で呟く。



「甘いわね。私があれぐらいで諦めるわけ
ないじゃない」


彼女はさっきの微笑みとは違い、
今度はニヤッとした笑みを
口元に形作った。



「羽崎十哉確保」



彼女はそう言って、俺の腕をガシッと掴む。
そして、司会からマイクを奪い取ると
よく通る声で


『ごめんなさい!
羽崎くん少し借りていきまーす』


と会場中に伝えた。

司会は勿論、会場中の人が口を開けて
ぽかーんとしている。


「は!?なに言って…!」



彼女は、その隙を見計らって
俺の腕を引いて
舞台を降り、走った。


俺の頭の中……勿論混乱してる。


なにが、どうなっているのか……。




俺は彼女にされるがままの状態で
彼女のあとを追って走ることしかできなかった。



《十哉side》終