ートントンッ
薬を飲んで、一息ついたとき
洗面所の戸からノック音が聞こえた。
「……慧…?」
母の声。
戸を静かに開ける。
目の前に立っていた母は
やっぱり、とても悲しそうな顔をしていた。
「慧、あのね…!」
「大丈夫だよ」
何か言おうとした母の声を遮った。
そして、ニコッと口元に笑みを浮かべる。
「私はまだやれるし、頑張れる」
母の手を両手に包む。
「だから…そんな顔しないで」
目を見て、しっかりと伝える。
心配しないで……と。
もう、悲しむ顔はみたくないから。
涙に濡れる顔は………みたくないから。
「私はいつも元気なママが好き。
ママには笑顔が似合うよ」
そう言って微笑むと
母は下げていた顔をあげて
いつもの笑顔を見せた。
「ごめんね…ママが弱くちゃダメよね。
ママが慧より強くならなきゃ!」
「うん!……じゃあ、この話はおしまい!
早く行って
羽崎くん捕まえてこなきゃっ!」
「そうねっ!ママも仕事頑張るわ」
薬をバックに詰め込んで
玄関に向かって走った。
「じゃあ、いってきまっす!」
「はい、いってらっしゃい!」

