夜は10時30分発の新宿行き高速バスである。
中年以上は二人ほどで後は全部若者だ。

何で又高速バスでとその中年を見つめると、
相手もそんな眼差しで見ていた。

京都駅8条口はものすごい数の高速バスで
どのバスか探すのに一苦労する。
ほとんど同時刻に出発するのだ。

途中何度か休憩に寄る。足の長い隣の青年が
そのたびに失礼といって外へ出る。

若い頃から何度も乗ってる高速バスだが
もうこの年になるとあまり気が弾まない。

寝たか寝ないかのうちに新宿に着いた。
朝7時、地下鉄で江戸川区の篠崎に向かう。

地下店舗はまだシャッターが閉まっていて
人はまばら。篠崎に甥っ子がいる。

この甥っ子は二つ下で兄弟のように育った。
先にこの団体に入会し大幹部だったが、

金銭トラブルを起こして去年除名になったばかりだ。
密かに誇りに思っていた甥っ子、どうしていることやら?

篠崎で下りて番地を頼りにアパートを探した。
まだ午前7時過ぎでさわやか夏の朝だったが、

もう太陽がぎらついていた。今日も猛暑になりそうだ。
駅から歩いて15分の所に古ぼけたそのアパートはあった。

本人には何も連絡していない。2F1号室しかと名前が
書いてあった。新聞も入っている。

なんだ、ちゃんと生活はできていそうだ。
そう思って一旦駅まで引き返して8時に電話を入れた。

ひょっとして女の人が電話口にと思ったが、はたして
昔のままの甥っ子の太い声だった。

「おお兄貴。何今篠崎の駅?分かるかアパートまで?
15分くらいだ、外で待っているよ」

ほぼ15分。甥っ子は外に出た待っていた。
はるか遠くから手を振っている。

見栄っ張りでパフォーマンス好きは少しも変わっていない。
おっちょこちょいのお人よしだ。

「女っけはまったくないのか?」
「そんな、全然ないよ」
「生活は?」
「今クレーン車を動かして月30万、半分は返済にまわしてる」
「追いつかんだろう?いくらあったんだ?」

「6000万。マンション売って、何やかんだであと3000万」
「何で自己破産せへんかったんや?」
「色々ややこしいことがあってな。同志が絡んでるし
3000万は絶対返さなあかんと思ってる」

「もっと地道にやれんもんかの?」
「まあな、そこが兄貴と違う所よ」
「奥さんと子供は?」
「嫁はんはノイローゼになって実家に引きこもってしもうた。
千葉の田舎。子供たちは3人とも元気じゃ、もう働いとる」

「そうか。問題はお前じゃの」
「そのとおり。問題はわしじゃ。一生背負うていかなあかん」