若林は一息ついて時計を見た。
「あ、甥っ子に電話しなくちゃ」
「そこの電話使っていいわよ」
「ありがとう。じゃ借りるね」

若林は手帳を見ながらプッシュする。
「ああ勝彦?無事着いて今お邪魔してるところだ。
昨日の晩も夜行バスで今晩も夜行だから、昼は猛暑で
もう限界。頭がボーっとしてる。夕方には戻るから」

そう言って受話器を置くと急に眠気がさしてきて
そのままテーブルにうつふして眠ってしまった。

夕方、3人が帰って来た。
君子が灯をつけて若林が目覚める。
「パパ達が帰って来たわよ」

玄関が開いて、
「あ、お客さんだ!」
の声が聞こえた。知見とパパと男の子2人。

「あら?お父さん、急に又なんで?」
「選挙で東京に応援に来たついでに」
「ああ、都議選ね」

パパと子供たちが揃って、
「はじめまして。いらっしゃーい」
「はじめまして。直人と亮太だなパパとは電話で2回。
いつも温泉旅行ですみませんねこの二人」
「いえいえ。どうぞごゆっくり」

なごやかな笑い声に包まれる。君子が、
「で、病院はどうだった?パパ?」
「うん、しばらく様子を見ようということで・・」

「結構いるんだって、直人のようなマイペースな子は。
人の言うことを全く聞かないのよねえ」
「ああ、耳はちゃんと聞こえているし、物事の判断も
つくので、そう心配しなくていいって」

「逆に下の亮太は何にでも興味を示すし、行動的で
かまってくるから、兄弟何とかシンドロームといって
全く逆の性格になるんですって」

「そうかそうか。まあ、そう不安がることはないよな」
「おじいちゃんがそういえばまず安心」
知見がそういうと皆で笑った。

パパと子供たちは居間に行く。
若林と君子と知見3人テーブルに座っている。知見が、
「改めましてお久しぶり?10年ぶり?」

「銀座で就職先の休憩時間に抜け出してきて、
三越のレストランで食事をした」
「あの時以来ね。お母さんとは?」
「12年ぶりになるかな?」
「そうね、もうあっという間ね」

「おじいちゃんだ。孫、どう?」
「そうだな。選挙が無かったら一生
会えなかったかも知れんな」
若林はそう言ってうれしそうに微笑んだ。