「もうそれ以上言わないで、悲しくなるから」
パソコンをしまいながら君子は、
「シャワーでも浴びてきて、汗大変でしょ。
パパの着替えを出しとくから」

「ありがとう。帰りに又これを来て帰るから乾かせるかな?」
「そうね。大丈夫でしょ」
若林は自分のTシャツを君子に手渡した。
12年の空白が一瞬途切れたような気がした。

若林はシャワーから出てダイニングのテーブルに座った。
よく冷えたウーロン茶が出ている。
「タバコやめたの?」

「2年前に大怪我をしてタバコも酒もやめた。
ついでに爪かむクセも、ほら」
若林は両手の爪を見せた。

「あ、ほんとだ。すごい!相当の大怪我?
私、タバコ失礼させてね」
「ああいいよ。その大怪我とは実は・・・」

若林は出張先で夜釣りに行って突堤に墜落、骨折し。
半年間ギブスだった事件を語った。

「そうだったの。失明に次ぐ大事故ね」
「何とか変毒為薬しなければと、それ以降禁酒禁煙
ついでに爪かむクセもきっぱりと止めた。
お袋が知れば泣いて喜ぶと思うよ」

「すごいわね。人間革命?」
「お金周りは相変わらず最悪だけど誇れることはこれかな」
「もう冒険はしないの?」

「それが・・まだまだこれから。小説と中国」
「小説と中国?」
「スペインで1ヶ月ボーッとしてた頃憶えてる?」

「おぼえてるわよ。レストランでお財布盗まれたもの」
「あの頃ちょっと小説書きかけたけど、今長編2本と
短編が10数本完成してる」

「そんなに?」
「ここ2,3年あちこち公募に出してはいるんだけど、
全く入選は難しい」

「相当難しいのね?」
「もう公募はやめて誰が読もうが読むまいが書き続けて
いこうと思っている。一生の仕事になりそう」

「そして最後は中国と言うわけね?」
「そう、仕入れもあるしね」