カチン、カチン……。
暗い暗い闇夜の一室。
時計の長針が揺れる音だけが響き渡る。
”時間だ。”
びゅう。
窓も扉もない部屋なのに風が吹くとは、なんたる不気味なことか。
”思い残すことはないか?”
「ふふっ。優しいのね。」
”『さいご』だからな。”
「その優しさ、残酷よ。」
”…………、思い残すことはないな。”
「いいえ。1つだけ、あるわ。」
”早く言え。”
「あなたを困らせることになってしまっても?」
”いつも、お前は俺を困らせる。馴れた。今さら遠慮など…………”
びゅうう。
更に激しく風は吹き荒れる。
その風は私の背中を押してくれているようだった。
びゅううう。
私は、意を決して彼の顔に近づいた。
そして、
そっと、
軽く触れるだけのキス。
ああ、私からしてしまった。
全ては、これが引き金となったのだ。

