返り血を体一杯に浴びて、ふと我に返った。

嗚呼、ついにやってしまったか。

日常的な言葉の暴力、行き過ぎた束縛、個の自由なんてものは認められない。

殴ったりなどの暴力こそされてはいないけれど、精神は既に崩壊寸前まで追い詰められていた。

頼れる人なんて誰もいない。
否、存在したけれどこいつのせいで失われてしまったというのが正しい。

精神科に通い、クスリを服用しても改善される気配すらなく大量の安定剤を飲む毎日。

薬の副作用で体の調子が悪くなろうとも、お構い無しにすべてを押し付けてくる。

深々と刺さった包丁を抜いてみると、傷口から溢れ出る黒い血。

こんな人として不完全な奴でも、我々人間と同じ血が流れていたんだ。

これからどうしよう、警察に行って自首すべきかな。

やりたいことも出来なくなるだろうから、先に終わらせてしまおうか。

自らの生を絶ち、罪を償おうか。

嗚呼、こんなにやることがたくさんあるなんてなんて久しぶりなのだろう。

自分自身の意思で決められるって、なんて素敵なことだろう。

これが自由、これが解放なのかな。

溢れ出るこの涙は罪悪感からか、それとも嬉し涙なのかさえ、もうわからない。