「岡本さん、ちょっといいっすか」


陳列棚に補充していると後ろから声をかけられ振り返ると、鼓動が高鳴るのを感じた。


「は、はい」


うわずりながらも返事をすると、少し微笑んで手元の資料と私を見て説明を始める。


このスーパーにパートとして働きだして一年になる私は、売り場の一部の管理を任されるまでになった。

始めは家計の助けになればと思ってはじめたパートなのだが、今ではやりがいと責任をひしひしと感じながら仕事を楽しめている。

上司や他のバイトたちに頼られるところも増えて、なくてはならないとまではいかなくとも店の一部として頑張れていると自負している。

でも人としてしてはいけないことにも、手を出してしまったらしい。


「…ってことなんすけど、一緒にやってもらえないっすか」


困った表情でこちらを見る眼鏡越しの瞳は澄んでいて、とても綺麗だ。


「品だしもそろそろ終わるから、その後でいいなら構わないよ」


私の鼓動の高鳴りはおさまらないまま、でもこれは仕事だからやらないと。

それに頼られていることなら、尚更手伝ってあげたい。


「ありがたいっす!! 他の人とは出来ないから助かります。俺も手伝いますよ」


そういって残りの商品を手に取り、さくさくと品だしを進めていく彼の手際のよさも惹かれてしまった一部分かもしれない。


私とは五つも年の離れた大学生の彼は、学業の合間をぬってここのスーパーにやってきた。

仕事もそつなくこなすし、教えられたことを理解するのも早い。

決して美形とまではいかないけれど、その澄みきった瞳はいつの間にか私を虜にしていた。

シフトが重なることも多く、自然とペアを組んで仕事をやるようになり、手間もかからないから働いていてストレスにもならない。

私だけが一人胸を高鳴らせているだけ。


「ありがとう、あなたと一緒だと仕事も早いわ」


名前を呼ぶのすら、最近は恥ずかしくなってしまった。

ものの数分ですべての品だしを終えた私たちは、バックヤードに共に歩いて向かう。

「岡本さんとならこれも早く終わると思うんで、さっさと終わらせてあがっちゃいましょ」


そういって目的の倉庫にたどり着き、解錠しシャッターを上げていく。


仕事内容はいたってシンプル。

倉庫内の在庫整理と検品、量も多く確かに一人でやるには時間がかかるだろう。

重たい荷物もあるが、これは彼が移動させるだろうし特に問題もない。

定時にもまだ余裕があるし二人ならそれまでに終わるだろう。


「あー、店長また適当に置いてるっぽいなぁ…」


何個か段ボールを開け中身を確認した彼は
、頭を押さえながらぶつくさと呟き書類と段ボールを確認していく。

店長のそういう所に困っているのは私だけではない、そう分かると少しばかり頬が緩んでしまった。


「岡本さんはそっちの棚のお願いしていいっすか?」


既に何個か検品を終わらせたのか、段ボールを抱えながら書類を一枚手渡してくれた。


「重たいもんは俺が運ぶんで、置いといてくださいね」


さりげない優しさが、嬉しい。


「ありがとう、助かるわ」


そう狭くはない倉庫に二人きり、そう意識し、彼の言葉に疑問を持つのはもう少し先のこと。