・・・その日以来、私は時間を作ってはお爺様の家に足を運んだ。
でも。
お爺様は、私を急かしたりしなかった。

毎日取り留めのない話をしたり、仕事の愚痴を聞いてくれたり。
日によっては具合が悪くベッドに横になっているお爺様の傍で、静かに手を握っている日もあった。


「…龍吾は元気か?最近、あまり顔を出さないな」
そう言ったお爺様は少し寂しそうな顔。
社長の事を、自分の子供のように可愛がっている事が手に取るようにわかった。


「とても元気ですよ。最近、とても忙しいんです。海外に業務拡大をしていますから」

「…そうか、龍吾はやり手だからな。…理子は、龍吾の傍にいなくていいのか?
専任秘書をしているんだろう?」

「大丈夫です。仕事はきっちにこなしていますから。
時間がある時だけ、こうやってここに来ているんです、気にしないでください」

そう言って微笑めば、お爺様も優しく微笑んだ。

「ありがとう、理子。理子は、真理に似て本当に心の優しい子だ」

「・・・そんな」

「…そうだ、理子に渡したいものがあったんだ」

「…なんですか、これは?」

枕元から、一通の封筒を私に手渡したお爺様。

「私から、理子にラブレターだ」
「フフ…そうなんですか?・・・それじゃあ、お家に帰ってから、ゆっくり読みますね」

私の言葉に、お爺様は笑って頷いた。


「…理子、」
「はい?」

「明日、…龍吾と一緒にここに来てくれないか?」
「…どうでしょう、私は来られると思いますが、龍吾さんはわかりません」

困った顔でそう言うと、お爺様は懇願するようにもう一度言った。

「・・・頼む、30分でいいから、時間を作って二人で来てくれ」
「…分かりました、何とかしてみます、来れる時間が分かったら、竹田さんに伝えますね」

私の言葉を聞いたお爺様は、安心したように目を閉じた。
ここ数日、お爺様は眠っている時間が多いと、竹田が言っていた。