砂糖漬け紳士の食べ方



「既にこの年齢で、一人で生きていけそうなたくましさを感じるもん、俺」


アキは空になったジョッキ片手に、中野を睨みつけた。


『女らしくすればいいのに』。

それは、幼いころから嫌というほど聞いてきたセリフだった。

「こう、お前の隣にいる綾子みたいに、『守ってあげたい!』と男に思わせるような儚さっていうのが無いと…」



仕事を頑張るだけで何故『一人で生きていけそう』なんて言われなきゃならないんだ。

一人で生きていけそうで、何が悪いんだ!



アキ渾身の睨みに気づき、中野が逃げるように目線を外して咳払いをする。



「あ、あー…ほら、その画家先生に、女の色気で迫って描かせるとかどうだ」


「しょせんまな板ですよ私は…。
そもそも、あの人、そういう欲すら感じないっていうか…たんぱくっていうか」



彼女の顔は、再びテーブルへと撃沈した。



「…ともかくさ、アキ。体だけは大事にしな」


作山がコップでビールを煽りながら言う。



「ちゃんと休まないと仕事すら出来なくなるよ。特にあんたは自分で追い込みがちなんだから」


同期の彼女は慰労の気持ちを表したかったのか、そっとアキの取り皿にキュウリの漬物を一片乗せた。





何をどうやっても、一度筆を折った伊達に『取材のため』として無理やり絵を描かせることが非常に心苦しい。

それがこの愚痴の理由にほかならない。


けれど下っ端編集者として、編集長の命令にも背けない…編集長の言葉にもうなづけるのだ。



久々の飲み会をしても、愚痴を同期に零しても、やっぱり胸のつかえは取れなかった。