砂糖漬け紳士の食べ方



「だったら編集長が直接言えばいーのよ!」



それからの夜の飲み会は、荒れるに荒れた。

駅前の居酒屋での小さな同期会だ。



「こう、デザイナーとか、イラストレーターさんに、0から1を産むのが大変なのに簡単に『絵を描いて下さい』なんて!」


3杯目のハイボールをジョッキでやすやす飲み干す彼女に、同期の作山が彼女の背中を撫でる。



「まあまあ、アキ。元気出しなよ。ほら、イカの塩辛美味しいよ?食べなよ」


彼女も、部署こそ違えど同じ出版社の社員だ。
中野からの『桜井が病んでる』という電話を受け、飛んできてくれた。



「まー確かに、いろんな奴の取材する部署だから、大変っちゃあ大変だよね」

作山が言う。



「それこそいろんな人がいるもんねぇ。私は総務だからあまり外には出ないけどさ」

「違うんだよ作山…私はね、私は、伊達さんのね、気持ちを、」


「はいはい桜井、絡むな」中野がナンコツの唐揚げをひょいと口に入れながら言う。



「そんなに真面目に考えるなって。桜井はお人よし過ぎなんだよ」

「人という字はー、人とぉー人がぁー支えあって出来ておりー」

「金パチするな」


「取材が決まってから、こいつずっと残業ばっかなんだよ」


中野の言葉に、作山が身を乗り出した。


「えっ、そうなの?どおりであんた、顔色悪いと思った」

「…そんなに悪いかな」

「悪いよ。吹き出物ひどいし」

「えっ、うそ!」


アキが咄嗟に自分の頬に手を当てた。



同期である作山にももちろんだが、同期入社というだけで戦友にも似た共有感情を抱く。

それは男女関係なく、一人の人間としての尊敬も混じっているのだが…。


ああ、同期って優しいわ。だって吹き出物まで心配してくれるんだもの。

そうシミジミと感傷に浸るアキを、中野はやすやすと乱暴な言葉で踏んでみせた。




「桜井も、もう少し女らしくすればいいよな」と。