砂糖漬け紳士の食べ方


手の中の万年筆をテーブルへ置くのと、彼女の唇へ甘くキスをしたのはほぼ同時だった。

1回は軽く、2回目はそこそこに深く…しようとした目論見は、彼女が咄嗟に私から身を引いた事でとめられた。


私は苦く笑う。

だが彼女の頬は染まったままだ。




「…まだ慣れないのかい、キス」


ひそりと言った私の文句に、アキはその目へ微かな潤みを見せる。



「な、慣れるとか慣れないとか、そういう問題じゃ、無い気がしますけど」

「そう?」

「そうです」

「…じゃあ、慣れるまでずっとしていようか」


わざと囁くように耳へ声を落としてやれば、もう彼女が自分に逆らえないことを私は知っている。

現に今だって、うろたえるままで唇で何かを言おうとしているが
それが何か言葉を成している訳でもない。


「な、何をですか」

「言わせるの?野暮だねぇ」

「そ、それよりも伊達さん、あれです、教えて下さい、インクの入れ方…!」

「うん、あとでね」


万年筆を掴もうとする彼女の手を、絡め取る。

そしてそのまま、柔らかく握りこんだ。


テーブルの上には、『ブーゲンビリア』のインク瓶が美しいままに乗る。

果たしてこの子が、この花色のインクを贈った意味にいつ気付くだろうかと私はほくそ笑む。


…ああ、でも。

気付かない方が、良いかもしれないな。


時として愛の言葉は、その人の未来までも奪ってしまうものだから。



「アキ、俺の方を向いてごらん…?」




喉から出かかった言葉を、唇に乗せてそのまま彼女の頬へ口付けた。

自分の想いが、いつか彼女を縛らない形で気付いて欲しいというわがままな欲も、そこへ混ぜながら。







【完】