砂糖漬け紳士の食べ方



「えっ、いいんですか!」

「ああ。ホワイトデーのお返しだから」


3月14日…はお互いの都合で逢えず、その翌日、リビングでプレゼントを渡したのだが、その途端に彼女は笑顔をいっぱいに浮かべた。

「ありがとうございます!」と何度も言いながら、彼女の華奢な手が包装を解いていく。



「…あ、これ」

白く美しい万年筆に、アキが顔を私に向ける。
その表情は、まるで子供が新しいおもちゃを目にした時のようだ。


「万年筆。仕事で文字を書く機会も多いだろうから」

「こんな高そうなもの、良いんですか」

「別に君が気に病むことではないよ」


「ありがとうございます、伊達さん!」


この年になって、彼女のような、素直で無防備な笑顔を目に出来るなんて思ってもいなかった。


自分はそう無駄な人づきあいを好まないし、極力しようとも思わない。

だがこの子だけは別だった。

それが、『最初から自分に好意を向けていたから、もう嫌われることもない』という安心感からくる愛情だと言われても間違ってはいないが、彼女の為なら、何だってしてあげたい気持ちに思えた。

…年齢が離れているから、もしかしたらただの保護欲かもしれないが。



「試しに書いてみたいです」

「ああ、そうだよね。…じゃあ何か…このチラシの裏でもいいかい」

「ありがとうございます、借りますね」


手ごろにあったチラシに、彼女はスラスラと万年筆を滑らせた。

その滑らかな書き心地にアキはひと際感激を見せる。


「あ、あとこれも…インク」


万年筆ばかりに気を取られ、傍らに置きっぱなしになっていたインク瓶をこれ見よがしに彼女の横へ置いた。

その深い朱色に、もちろんアキは吸い込まれるように視線を集中させる。



「…すごい。何か魔法の薬みたいですね」

「花のブーゲンビリアをイメージした色らしい。
なかなか書類には使いづらいかもしれないが、手紙を書く時には一層映えると思って」


インク瓶の美しさに感動しながらも、アキはどこか困惑を見せる。


「…ああ、もしかして、インクの入れ方とか知らないの?」

「はい」

「そう、万年筆を貸してごらん。教えてあげるから」


言って、彼女の手から万年筆を受け取った。

そして例のインク瓶を取ろうとして…気付く。


「………」


彼女が、急に口を噤んだことと

私がアキに急に近づいたことで、その顔が赤く染まったことを。


まさしく、『ブーゲンビリア』の花の色と同じように。



「……」


私の中で、いじらしいその表情を見た瞬間に、悪い気が起こり始める。

無論、彼女に対して。