「もしご入り用でしたら、ご一緒にインクもいかがですか」
「インク?」
「はい。最近では、いろんなメーカーから多くのインクが出ておりまして…。
気分によってインクを変えられるのも、万年筆の醍醐味ですからね」
そう言って店員は、私の前にカタログを広げた。
確かに彼が言うように、一昔前とは比べ物にならないほどにインクの種類が販売されているらしい。
そのインク瓶も、メーカーによって様々な形のものがあり、高いものだと5千円のものもざらにあった。
「当店では、こちらの…シリーズ…それとこちらのシリーズも扱っております」
試し書きも出来ますよ、と店員は私をインクのコーナーへ案内した。
まるで薬瓶かのようにいろんな形の瓶が整然と並ぶ様は壮観だ。
その中で、ひと際ポップが目立つインクのシリーズが目に止まった。
「…この『花言葉』というのが人気なんですか」
「『花言葉』ですか。ええ、一番人気になっております。
ご覧のとおり、その花びらの色をイメージに作ったインクでございます」
「ふうん」
「日本のメーカーでして、紙への浸透もほどほどにようございます」
インクを一瓶一瓶見だした私に「どうぞごゆっくり」と言い残し、店員は颯爽とカウンターへ戻った。
並んだインク瓶は丸いフォルムをしていて、一昔前の絵本にあった『魔法の薬』を思い起こさせる。
定番のバラに始まり、アジサイ、チューリップ、…おおよそ10種類くらいの花をイメージしたインクの色は、それぞれに独特の色で美しい。
そして値札を見ながら、このシリーズが『花言葉』とつけられた由縁を知る。
イメージした花一つ一つの名前の下に、花言葉が添えられていたのだ。
「ああ、なるほど…」
言いながら、インク瓶を手に取る。
値段もそう高くないから、一緒に贈るのも悪くない。
その中で一つ、目に映える色を見つけた。
朱色に近いそのインクは『ブーゲンビリア』と名前が添えられている。
と、その下にはもちろん、その花の花言葉が…。
「…………」
少し考え、のち、私はその『ブーゲンビリア』をカウンターへ持ち込んだ。
「お買い上げありがとうございます、先ほどの万年筆と同様、贈り物ですか」
「はい」

