砂糖漬け紳士の食べ方



身を切るような恥ずかしさと、それを包む重苦しい沈黙が彼女を襲った。

しかし何秒経っても伊達からの反応がなく、彼女は恐る恐るチラリと視線をあげる。


確かに伊達は、自分の服を掴むアキを見下ろしていたのだが
その表情は、この官能的な雰囲気に全くふさわしくなく、驚きのまま目を見開いていたのだ。

そして返された言葉もこれまた、シチュエーションにふさわしくないものだった。



「…君、そんなこと気にしていたのかい」

「は?」

「だから…年の差がどうとか…」



甘い雰囲気を一瞬で覆した彼のセリフに、憤ったアキが思わず歯を見せた。



「そ、そりゃあ気にするに決まってるじゃないですか!
前にここに来た女性の編集者なんてあんなに色気あって、そうしたら伊達さんは『女性の色気は30を超えてからだ』とか言うし!」


「…ああ、そんなこと言ったねえ」


「そうですよ!それに、ああいう人みたいに私なんて美人じゃないから……あんな風にお色気ある美人がタイプなんだって思って…」



しかし勢いづいた反論は、いつのまにか尻すぼみになって、消えた。

いざ不安を言葉にしてしまうと、それはどうしようもなく心の底にあった不安感を掘り出してくる。



しかし伊達は彼女の揺らぎなど動じずに、アッサリと言い放ってみせた。


「どうも君は、無い物ねだりをする傾向があるね」と。



「どうして他人の持ち物ばかり欲しがって、自分の持ち物を見ようとしないの?」



それはまるで、人生の啓発本に載っているような文言だった。


けれど彼女は引かなかった。

アキがずっと心に留めていたのは、そこだけじゃない。



「だ、だって…年の差なんて……いくら頑張っても縮まらないじゃないですか」



彼女の威勢の良い声が凛と響き

そしてしばしの間、二人は無言のまま視線をかち合わせた。


しかし



「…っ、ふ…」


彼女の真剣さをさて置いて、伊達は笑いが漏れる口を押さえた。

くつくつと喉の奥で笑う声が沈黙を埋め始める。



「…何で笑うんですか」

「ふ……ごめん…っくく……」



彼女の反論虚しく、いよいよ伊達が声をあげて笑い出した。

それと同じくして、張り詰めていたリビングの空気が緩む。


顔をくしゃり歪ませて奥歯を見せ、その目尻には皺すらあるが、その唇には無理な力や力みがない。

伊達圭介の心からの笑い顔を、彼女はこの時初めて見た。



「そんなに笑わなくても…私、本当に悩んでたのに!」

「うん、そうだよね…ごめ…くっく……」




ひとしきり彼は笑ったあと、涙すら浮かんでいた目を擦り、清々したように言った。



「いやー……本当に可愛いなあって思って」



その突然の甘い言葉に、今度はアキが驚く番だった。

しかし彼はそれすらも介せず、笑いすぎて乱れた呼吸を押さえる。



「そうか、君はそんなに気にしていたのか……でも普通は40近いおじさんの方が、若い子に嫌われないか心配するものだよ」


「わ、私の方が気にしていましたよ」



思い切り笑われた羞恥心にアキは唇を突き出し、不満の意を見せる。

年の差を気にする、という割には子供な仕草に、彼は密かに微笑んだ。




そうしてやっと呼吸を整えて、彼はひそり囁く。


「…君に良いことを教えてあげようか」




そう言ってテーブルの上に置かれたままだった、ある箱を手に取った。

箱に描かれた紫色の花…スミレの砂糖漬けだ。


アキは、伊達の手の中にあるスミレの砂糖漬けと彼とを交互に見比べる。

しかし彼はニッコリと笑って、その箱を指した。





「知ってる?これ……ひとつ食べると10歳年を取れる薬なんだよ」