スマホを見ながらじっと一つの画像をみる横顔を、俺もまたじっと見つめる。


「やだ、うざい、見ないで」

「傷ついたのでちゅーください」

「セクハラ」


画面をそっと覗き込めばそこには先ほどまで一緒に仕事していた俺の画像がある。決められた服を着て、決められた場所に立ち、自由な顔で立つ俺。



「このナツ、顔かっこいい」

「顔?」

「かっこいい男の顔してる」


照れる照れる。とても照れる。


かっこいい、なんてそんな嬉しいことを言われて口元が僅かにニヤつく。



「なんか、ナツって私が撮ると怖い顔ばっかりするから、この顔がいちばんましだよね」

「そういうことかよ」



好きな女にレンズ越しに見つめられて、ただで居られる男ではない。

仕事だとしても真剣な瞳を向けられれば情熱が溢れてしまう。気づけこの野郎とばかりに気持ちを込めてしまう。

プロ、失格。



「ごめん、気をつける」

「いや、わたしも何か気を利かせたこと言えればいいんだけどナツだとどきどきするから」

「どきどきね、するんだ」

「するよ、変な写真撮ったら怒られるもん」



はにかむ笑み。左頬にできたえくぼが可愛い。


そっとその頬に触れようとした時、軽快な音楽が鳴りお風呂が沸きました。と機械音が喋る。


「はーいお風呂いきまーす」

「行ってらっしゃい」


まるで腕の中からすり抜けるような感覚を覚える。この数年間で何度も味わった喪失感を、また抱える。