「して」
本当に馬鹿だと思う。晶も俺も。こんな答え、導いてはいけないはずなのに。
「自分が何言ってるかわかってる?」
「わかってるよ……して欲しいの」
「んーと、ごめん失礼なこと聞くけど欲求不満とか?」
彼女の上に跨った状態で聞いたのがまずかった。渾身の力で太ももを叩かれた。
「痛っ!」
彼女が眉を潜めると涙でいっぱいの瞳からまた雫が溢れる。
「…誰でもいいわけじゃない」
「あー、ごめん。そんなこと思ってないよ」
純真を抱いて生きている彼女にそんな不埒な考えがあるなんて思ってない。要らないことを言ってしまったと後悔をする。
彼女の頬に張り付いた髪を払って、触れ合うだけのキスをする。
「…わたしは」
「ん?」
「ナツがいい」
「……うん。晶がいいよ」
この後に及んで逃げようとした自分が情けなくなった。こんなにも彼女が真っ直ぐな情熱を向けてくれているのに、無かったことにしようとした。
だが、俺と晶は恋人ではない。例え1日に2回のキスをしたとしてもそこには物語のような展開は待っていない。あるのは現実。ただそれだけ。
いまここで赤く警告を示すラインを踏み越えてしまえば、もう元の2人には戻れない。
理性と本能の狭間で揺れる。結論なんか出るわけない。だから、俺は現実を見て見ぬふりをする。
「晶を貰うね」
彼女もきっとそれを分かっていて、本能の赴くままに、何かから目を逸らしている。
「ナツも、わたしに頂戴」
もうとっくに、俺は晶のものだよ。とは言えなかった。緊張で震える睫毛がこれ以上の言葉は不要だと示していたから。

