「じゃあ、明日は11時入りだからそれまでゆっくり休んで」

「ありがとう。ナツもね」

「おつかれ」



小さな頭を撫でて、長い髪を耳にかける。滑る指先が丸い縁に触れてそのまま頬を撫でる。


閉じられた扉を背にして少しの背徳感と、気持ちの高揚が交差する。このまま、キスしたい。


数時間前のそれを思い出して身体に熱が集まる感覚がした。


「やばいね、このままじゃ止められないわ」

「え?」

「いや、なんでもないよ」


行くあてのない情欲を押さえ込んで笑みを向ければ彼女も安心したように笑った。


「皆んな大変みたいだから不安だったけど、ナツがいると安心するね」

「そう?俺ってそんなに頼れる男になった?」



親指の腹で目尻を撫でると、まるで猫のように目を閉じ、右手に添えられた彼女の小さな手。


「うん、頼りにしてます」


このまま離したくない。手のひらから伝わる温度を抱きしめて自分のものにしてしまいたい。


「じゃあ、また明日ね」

「うん」

「俺以外誰が来てもドア開けんなよ」

「なにそれ」


行くね。と手を引こうとすると、するりと掴まれる。なんで今、こんなことするかな。


「ねぇ、離れられなくなるよ」


いたずらに、指と指が絡み合ってせっかく自分の部屋に帰ろうとした気持ちは見事にたった数秒でグラつく。


「あーもう」


繋がったままの左手はそのままに力任せに引き寄せる。


「今のは晶が悪い」


肩口から香る匂いを吸い込めば楽しそうな笑い声が小さく聞こえる。背中に回された細い腕が揺れる。


「わざとだもん」


心底、悪い女だと思った。