ホテルのレストランは半個室になっており、ほとんど他人の目を気にすることなく食事ができる空間になっていた。

俺の隣に座るのは晶、ではなく安藤さんで、向かいに彼女が座っている。


「食欲ない?」

「ううん、美味しい」


そういう晶の前の皿には数分前から姿形を変えてない料理が置いたまま。


「今日食べてばっかりだからなんかお腹空かなくて」

「そっか」


かくいう自分も明日からまた撮影が始まるため、肌や体調のコンディションを整えるため野菜と果物を多めに摂取しているから、カロリーに差異はない。


一人だけ、俺の隣で無遠慮にも程があるほどステーキを食らっているのはマネージャーで。


「うん、上手い。上手い。撮影終わったらまた来よう」


うんうんと頷いている彼は味が付いてれば大抵のものは上手い!と大喜びする人間だということを知っている。それを知っていてもやはり美味そうに食う人間である。


「普通気使うよね、隣に撮影控えてるモデルいたらさ」

「普段ちゃんと仕事してるからこういう時にご褒美もらわないとね」


ヘラヘラ笑ってステーキ一切れ口に入れるとうまぁ。とにやける。幸せそうな人間だな。


また一口、美味しそうに頬張るとテーブルの下でスマホをそっと覗き込む。


「あ、撮影チームみんなチェックインしたって」

「いよいよだな」

「品川さんも一本遅れて来れたみたい。よかったですね」

「はい、わたしにもさっき連絡ありました」

「品川さん心配してましたからね。晶さんだけ先に一人行かせるから」


21歳の普通の女の子ならばまぁ、大丈夫だろう。だがしかし、晶はもう普通ではない線を超えた一般から見たらはみ出した存在になりつつある。


一人で出歩くことなんて以ての外、なんて過保護すぎやしないかとも言われかねないが、品川さんはそれを遂行する一人。


俺も、彼も。


誰しもがそのことに晶が傷つかないように必死に守りの手を強めようとしている。