「あーきら、ご飯食べに行こ」


チャイムを鳴らしてすぐ出てきた彼女は、不安を掻き立てられたまま少しばかり放置されていたせいか顔色が悪く見える。


「ナツ、大丈夫?」


はらりと落ちた髪をまた耳にかけるように頬を撫でると、珍しく大人しい。よほど不安だったのだろう。


「うん、大丈夫。ごめん不安にさせたね。」


そのまま頭を撫でてそっと引き寄せるとそのまま腕の中に入る。


「あれ?上手くいった。拒否られるかと思ったのに」


笑いながら言うと上目遣いに見つめ合う晶がおでこを胸にトン、とぶつける。


「だって、ナツがいなくなっちゃう気がして」

「なんだそれ、いなくならないよ」

「うん」


腕に力を入れて彼女の首元に顔を埋めるとより体格差がわかりやすくなる。愛おしさが募るばかり。


「ナツ、苦しい」

「ん、ごめん。もうちょっとだけ」

「しょうがないなぁ」


抱きしめた温度を身体で、頭で、心で覚えるように息を吸い込んだ。香るのはもちろん彼女の優しい花のような匂いで、目の奥がぐっと、熱くなった。



あの日、無神経な15歳の俺は泣けない晶に守る、と約束した。


今では腕に抱けるほどの体格差が出来て、大人になって、あの頃よりもできることは格段に増えたはずで。


だから、今度こそ守り抜いてやりたいと思う。


「ね、晶」

「ん、なに?」

「俺さ、晶のこと好きだよ」



彼女の肩を少し離して目を合わせると、そこには眉尻を下げた少しだけの泣き顔があった。


そっと頬に手を当てて親指で目尻を撫でる。


「ね、キスしていい?」


反論の余地を与えずに彼女の綺麗な唇が言葉を紡ぐ前に塞いでしまう。


合わせるだけのそれだったつもりが止まらなくて、角度を変えて熱を押し込む。


息が苦しくて開いたのをいいことに舌をねじ込んで口腔内を制圧すると、細い指がぎゅっと、俺の胸元のシャツを掴んでいることに気づく。


そっと手を添えて握るとまるで、想いが伝わりあっている恋人のような感覚を覚えた。


チュッとラップ音が鳴り、ようやく距離を取って顔を除きこむと、赤らんだ頬に濡れた唇があって酷く欲情的だった。


ああ、本当に好きだ。好きで好きで好きだ。


頭を撫でて少し乱れたのを直す。晶の目線はずっと下のまま。きっとどうしたらいいのか考えあぐねているのだろう。


「晶、ご飯食べに行こっか」


手を差し出したら黙って重ねられる。それが堪らなく嬉しかった。


ふと、思い出したのは昔読んだことのある本に載っていた一節。

1日に2回のキスをした2人は恋人である。

きっともう思い出すこともないだろう。