「で?今度はなに?」


ホテルの部屋に晶を送り届けて数分、俺は安藤さんの部屋へと押しかけ我がもの顔でソファーにふんぞり返っていた。


その様子に少し笑った彼が疲れを滲ませた溜息をそっと吐いた。


「今度は、晶さん」

「…内容は?」

「主には家族のこと。あと自身のことも有る事無い事面白おかしく書いてある」



渡されたスマホに載る画像に汚い言葉が並んでいて、まるでじわりと人の心まで蝕んでいくようだと感じた。


「これが初めてなの?」

「いや、実は前にも何度かあったらしい」

「らしい?」


言い淀む口ぶりに反応を示せば渋々といった様子で答える。


「社長が数回もみ消した。後は晶さんの父親にも直接売り込んでたらしくて、そこで消したらしい」

「そのこと晶は?」

「もちろん知らない。今回のこともどうにか知られないうちにって思ってたみたいなんだけど」


もう言わなくても分かった。スマホに載るそれは中吊り広告と呼ばれるもので、電車や駅などでよく見かける週刊誌の見出しを大々的に広告として使っているもの。


掲載期間は2、3日と短いが広告効果としては抜群。週刊誌の売り上げにも貢献するし、なにより衝撃的な見出しが多いためインターネット社会の現代では想像を掻き立てられたユーザーがデマの情報をより多く拡散させる。


いわば、起爆剤である。


その起爆剤が放たれたと言うことは明日にでも発売する週刊誌に掲載されてしまうということ。

そして、爆発を待つのみ。


つらつらと大物政治家や清純派女優のスキャンダルが並ぶ中、端の方に並ぶ文字に憤りが隠せない。



"謎多き美人カメラマンの悲しい生い立ちと華麗なる男性歴"



文字の下に小さく載るのは、カメラマン瑞木晶の疲れた横顔だった。