「ごめん、お待たせ」


ものの数分で終了するだろうと思われた通話は、思いのほか長引いたらしく、15分程外に出ていた安藤さん。


戻ってくるなり飲みかけていたコーヒーを飲み干すと行くか、と一言。


「なんかあった?」


その様子、余裕ぶった中にある若干の焦燥感に馴染んだ目元を盗み見れば彼は首を小さく振る。


「いや、まだ何も」

「まだってことはこれから何か起こるんだ」

「だから先に避難する」

「俺も晶も?」

「どっちも」


会話をぽかんと聞いていた晶は雰囲気を察して徹ちゃんにご馳走様でした。また来ますね。と笑顔で言うと不安気に眉毛を落として行こ?と俺を誘う。


「ごめん徹ちゃん。また近々来るね。ご馳走さま」

「大変そうだね。気をつけて帰ってね」

「ありがとう」


乗り込むとすぐに発車するスピード感にじわりと不安を煽られる。


三者三様、黙って過ごし信号待ちに差し掛かった時に、晶が話しかけた。


「あの、何があったんですか?」


その言葉にハンドルを握りながら振り向いた安藤さんはうん。と一言だけ呟く。


「ホテル着いたらゆっくり話してよ」


答えない安藤さんに助け舟を出すとそうしよっか。少し明るく答える。


晶は少し眉尻を下げ、困った顔をしたいる。震える小さな手を掴んで引き寄せて、しっかり繋ぐ。


「大丈夫、たぶん大したことないよ」


安藤さんの顔を見て、今ここで話そうとしない様子を伺い察した俺は、大きな嘘をついた。


「安心して、晶のことは俺が守るから」


中学生の時よりも、遥かに固い決意でそう粒やいた。