ーーー翌日。
緊張して寝られない。なんてこともなくソファーで爆睡していると不意に香る愛おしい匂いに目を覚ました。
「ナツ、起きた?」
「ん、起きたよ」
「おはよう」
ラグの上にペタッと座っているのだろう、目線が同じになっている。身じろぎ手を伸ばせば晶がそれを取る。
「ごめんね、昨日。わたしまた寝ちゃって、ベッドも使わせてもらって」
「うん、寝顔可愛かった」
「……2日連続で見られるなんて」
「俺は毎日でも構わない」
「もう、寝起きでも軽いんだから」
軽い?そっか、そう聞こえるのか。まぁ仕方ないか。寝起きの働かない頭で思考回路だけが動き始める。
「昨日、ご飯もありがとう。美味しかった」
「朝ごはんも食べたく?」
「ありがとう、でも部屋に帰ってそろそろ準備しないと」
「そっか、わかった」
掴まれた手のひらを返してそのまま指を撫でる。細い指先と綺麗な形の爪をなぞって、ぼんやりとした脳みそはかじりつきたいなぁ、と考える。
「ナツ?」
「んー?」
「もう行くね」
「うん」
言外に、離してと言われて拘束を解くと彼女はいとも簡単にすり抜けて行く。
「じゃあ、また後で」
「ん、忘れ物すんなよ」
「ありがとう」
パタン。としまった玄関のドアの音に無性に寂しくなる。
晶、ずっとここにいればいいのに。無理難題だしそもそも一緒に住む理由すらもないし、隣の部屋に押しかけたのは俺だし。
わかってる。わかってるけど、ぼんやりとした思考の中ではわがままが一人歩きしていた。

