撮影が始まって早2時間。スーツで格好つけた俺は座らせられたり、窓際に立たされたり、晶から一挙手一投足の支持を受けていた。



「頭ちょっと振って、うん、そのまま」



せっかくセットされた髪は中盤になって掻き乱され無造作に目の上に落ちて来ている。その髪の一本一本でさえも動きを指定するものだから彼女のこだわりの強さが伺える。



「南月さん、ここに座って」

「ここ?胡座でいい?」

「うん、好きにしていい」



窓際のセット、ちょうど陽の光が入るようになってる場所。椅子も何もないのでそのままフローリングに腰掛けていつものように胡座をかく。

新品のスーツだからうまく脚が曲がらなくて適当に折って壁に背中をつけた。

ふと、上を向いて窓から入る光を見つめる。高い位置にある太陽にそろそろ晶休んだ方がいいんじゃないのか。なんて仕事とは関係ない事を考えてしまった。



パシャ。



「晶」

「なんですか」

「今なに考えてたかしってる?」

「わからない、ネクタイに手をかけて引いてみて」

「晶のことだよ」



ワイシャツのボタンを2つ外してネクタイに締められた首元を緩めると幾分呼吸が楽になった気がした。


パシャ。



「聞いてんの?」

「うん、聞いてる」



カメラ越しにしか見てこない晶に手を伸ばす。昨日同様、彼女は迷うことなく手を掴んだ。


数枚撮られてすぐに彼女にグッと手を引かれ従うように立ち上がると、反対に彼女がフローリングに寝転がった。


その間も手は離さないままで、まるで心まで繋がっている気がした。


すれ違いざま、彼女が寝転がる瞬間に耳元で囁かれた。



「わたしもナツの事しか考えてない」



畜生。好きだ。


随分情けない顔を晒していたと思う。完全にモデルの南月ではない、俺が露呈した顔で、ただ1人の女が好きな男の顔をしてた。



下からファインダー越しに見つめる彼女がシャッターを切った。