「おはようございます、昨日はよく眠れました?」

「いや、全然。晶ちゃんが隣にいてくれないと眠れない」

「一度たりとも隣で寝たことは無いのに?想像力が豊かで羨ましいです」

「だろ?いつも晶の事ばっかり考えてるから」



セットし終えた髪はいつもとは違う雰囲気で、ハード目に纏められ、身につける服は上から下までブランドが統一された黒に控えめのストライプの柄が入ったスーツ。

晶指定の俺である。

次の日、スタジオ撮影2日目の現場で朝早くから場ならしのように交わされていく会話に回りのスタッフが遠巻きにチラチラ見ていく。


その中で一人だけ、

「晶、売り言葉に買い言葉になってるよ」

「……すみません、品川さん」



そう言って優しく注意をすると見せかけて俺を厳しい目つきで見る男、品川さんだけが晶のすぐ隣にいた。



「いや、謝ることはないよ、ただ2人は主役だし、目立つからね」

「はい」



お利口に言うことを聞く彼女が気に入らない。彼女の瞳にいい男、いい上司として映る彼が気に入らない。



「随分、過保護ですよね、品川さんて」

「はい、勿論。可愛い後輩がくだらないスキャンダルで潰されたら困るのでね」

「火種が俺だと尚更?」

「どうですかね、ただ今はお互いに大事な時期なことは確かだと思いますよ」


だから、これ以上入ってくんな。そう言われた気がした。

彼はスッと目線を外すと、まるでもう蚊帳の外だと言わんばかりに晶に話しかけ始める。

馬鹿真面目にはい、はい。と話を聞いて頷く晶が気に入らない。


こんな事でヤキモチを焼く自分が、心底気に入らない。



「南月さんスタンバイおねがいしまーす!」



若いスタッフがスタジオの中心に俺を呼ぶ。短く溜息を吐き出してライトが集まるそこは足を運ぶ。



「今日もよろしくお願いします」



頭を下げて、スタッフに挨拶する。とりあえず大人になるために好感度を獲得しようと思う。