それから数週間後、写真集の撮影が都内のスタジオで始まった。



時間が限られている撮影の中で、どこまでできるか。



若い俺と晶は試されている。今後のために種を蒔くには期待値以上の結果を出す必要性がある。



それは晶はもちろん、スタッフ一同重々承知の博打打ち。


気合を入れて臨まなきゃいけない。



仕事モードの雰囲気を持った晶はいつにも増して口数が減り、1つ1つの行動に慎重さが伺えた。



カメラとライトの調整を終えるまでの数分の間、彼女の指先が震えているのがわかった。




「晶ちゃーん、緊張してんの?」

「名前は、やめましょう」

「仕事だから?」




その問いに一瞬眉根を寄せた彼女は少し泣きそうな顔で言った。




「緊張解けたら、泣きそうなの」




可愛すぎて抱きしめたくなった。



が、しかしそんなことをしたら今後一切口を聞いてくれなくなる可能性があるので衝動を押しとどめて。


小さな、細い背中を叩いた。




「ほら、息吸って」




黙って、言う通りに深呼吸を2回繰り返した晶は最後に笑う。




「ブサイクに撮っても許してね」



その言葉を皮切りに、撮影が始まった。


頭も身体も冷静な俺はただただ瑞木晶というカメラマンに見入っていた。熱が身体の中で滾る感覚に陥る。


撮られるたびに、シャッター音が聞こえるたびに身体の芯が震えた。もっと来い、もっと。


撮られるたびに彼女を覆う影が一つ一つ剥がれていき、本当の晶が見れる気がした。



スタジオの指定箇所の前に立った俺は、決められた服を着てカメラを持つ晶を見つめている。


ファインダーを覗く晶は納得がいくまでシャッターを切らず、俺に注文をする。



「後ろ向いて、またこっち向いて、重心を右に」



と、思ったら全く喋らなくなり、ひたすら撮りまくる。



静寂の中で布の擦れる音と、シャッター音だけが響く世界が作られる。



晶から物凄いエネルギーがぶつかってくる感覚で、それを全て受け止めながらぐっと顔を作る。


しかし、彼女は納得が行かないらしい。ぱっと、カメラから顔を上げた晶が呟く。




「ぶっさいく」




俺、驚愕。