「南月はすごいな」



ソファーに腰掛けた安藤さんはワイシャツのカフスを外すと、腕まくりをしながら俺を見る。



ペットボトルのお茶をテーブルの上に出すという最低限のもてなしを完了して、一息つこうとした時に、その話題か。




「晶のこと?」

「そう、愛しの彼女」

「すごいって何が」

「愛が」




クツクツと喉の奥で笑って楽しそうにしている。捲り上げたワイシャツが上質で、似合っていて、ああ大人だな。と感じた。




「俺の愛って重いの?」




不意に、不思議に思い問うと安藤さんはきょとんとする。




「自信家の南月でも心配になるんだ…!」

「俺をなんだと思ってるんだよ」




ダンボールからはみ出ていたクッションをぶん投げた。


顔面に命中したそれをどうにか受け止めてた悲惨なやつ。




「いやいや、違うって、南月っていつも独断でぱっぱと進めるから」

「…………」

「今回も思い立ったらすぐ行動的な?」

「的なじゃねーよ」




何にも上手くいかねぇよ。


得意の独断とやらも全く機能しないし。そもそも俺は晶にとってどういう存在なのだろうか。



想えば想うほど遠くなる愛おしい人。




「センチメンタルになるなよ」

「そういうお年頃」

「反抗期が何言ってる」

「うるさい、片付けて」

「お前の部屋だよ!」




クッションが投げ返された。




「愛が重いかどうか判断するのは相手だから、意見はできないよ」

「確かに」

「それに重いって何を基準にしてるのかわからないしね」

「行動とか?」

「とりあえず南月はストーカー」




もう一度クッションを投げ付けた。


先ほどより強めに。




「わかってんだよハーゲ!」



頭蓋骨もげろ。の意気込みで投げたそれは見事にヒットした。