しかも、こいつ本気だと思ってない。



面白そうに茶化す安藤さんと、嫌そうな顔をする俺を笑って楽しんでいる。


別にいいけど。



俺には告白する権利はまだない。


それでも気持ちを知っていて欲しい、なんておこがましいことを思ってしまう。煩悩だらけの俺。



「晶さんは今日はこの後オフですか?」

「はい、わたしも家のことやろうかなって」

「そっかぁ、残念」

「何が残念だよハゲ」

「一緒に食事でも行きたいなって思ってたんだけど」



そう言い放ったハゲを正面を向きながら殴った。


肩に当たったそれに身悶えるハゲ。



「痛いって、冗談じゃん!」

「こんな美人と飯食って下心抱かねぇ方が男がいるわけない」

「いやいや、なにその独自の判断!」

「もうここで降りて、歩いて」

「どこに行くにも辛い場所はやめて」


ドアを押さえる安藤さんは、とても滑稽で些か鬱憤が晴れたのでいいとしよう。


それからは信号にも捕まらずにスラスラと行動を進み帰路に着いた。



エレベーターに乗る際にまた安藤さんと一悶着あったが、そこはしつこいので割愛しておこう。



晶と部屋の前で別れて、また後で連絡する。と言うとへらっと困ったように笑われた。



それに対して真顔でいれば、わかったと返されようやく別々の部屋に入った。