キッチンにいる晶の後ろ姿を追い、細い体が無性に愛おしく思えた。
自覚したとたん激しい濁流のように好きが溢れてきた。
「ねぇ、晶」
「なに?真剣な話?じゃないと聞かないよ」
「いや、特に用はないけどさ」
呟いて背後から抱きしめた。
あの時、守るといった時と変わらずに線が細くて、力を入れたら壊れてしまいそうだった。
そっと、首筋に頭を凭れようとして傾けた時、晶がそっと動いて。
ドンッ。
殴られた。
鳩尾である。
「うわっ…不意打ち痛いわ!」
「痛くしてるの」
「え、晶どうしたの」
「ナツがどうしたの。わたしナンパして捕まえられる女じゃないよ」
「ナンパじゃないよ」
「じゃあなに?わいせつ行為?」
明らかに距離を取られるし痛いしなんなの。鳩尾を抑えて見上げれば晶はまた顔を晒しふん、とグラスを二つ持ちリビングへと消えて行った。
軟派男は急激な暴力、もといわいせつ行為に対する正当防衛に反撃する余地もなく、また背中を追って行ったのである。
距離を開けて向かい側に座り、彼女の入れてくれたオレンジジュースを飲む。
「ごめん、いきなり抱きしめたりしたのは悪かった」
「わたしはナツみたいに人に触れられることには慣れてないから」
ストレートな物言いなのに、文言以外の何かを含んでいるような気がして目を細めると、晶は続けた。
「ナツの好きな女の子とも違うし、ナツのことを好きな女の子ともちがう」
俺の好きは否定されるし、好かれてもいないということをまざまざと叩きつけられた瞬間だった。
そこまでの感情があったかは微妙ではあるが、そう解釈したネガティブモードまっしぐらな俺はゆっくりと立ち上がる。
「部屋の掃除するから、夜ご飯になったらよんで」
「なんでわたしが作ることになっていてさらには食卓を共にすることが確定なのか疑問があります」
「質問は受け付けません、失礼します」
駄々滑りな約束だけを取り付けて傷心の俺は1人ダンボールだらけの部屋に帰ってきた。

