「そんな勝手が許される業界じゃないって、ナツは知ってるはず」

「知ってて横暴働いてんの、いいじゃん、売れるよきっと」

「見習いのカメラマンと人気モデルの博打打ちって?」

「そうだね、いい見出しだと思う」



俺、喧嘩しにきたわけじゃないんだけど。やばいやばいと焦りで汗がジワリと滲む。



はぁ、と深いため息を吐かれた。



「ため息、吐くな」

「……うん、ごめん」

「俺こそ、ごめん」



視線が逸れた。と思ったらまた目が合う。


「いいよ、許す。その代わりたくさんギャラは貰うから」


ニヤッと笑った左頬にえくぼができて、とても可愛かった。



「俺のこと撮ってくれんの?」

「後で契約破棄とかさせないから」

「そんなことしないよ」

「へたくそって言われても撮るから」



まるで照れているような仕草で髪を耳にかけて、小さくつぶやいた。



「ナツ、ありがとう」



いつも言われる言葉の真意は、この時もさっぱりわからなかった。


それからの俺の行動は早かった。強引に何度も打ち合わせを重ね、連絡先を交換し、大学内でも執拗に追い回したように思える。


スキャンダル好きな学生たちははやし立てたが、あの頃の俺ではない。



「俺が追いかけてるのいい女でしょ?」



と言わんばかりに隣に張り付いて、晶の時間をなるべく自分に使わせた。


晶はとても優しくて、口では嫌だ、来ないで。というくせに打ち合わせに呼べば素直に来るし、仕事としてしっかり執り行う。

大学でも遠くから声をかければ立ち止まり、俺が来るのを待っていてくれる。



「ねぇ晶、いまどこに住んでるの?」

「ひみつ」

「なんで、いいじゃん」

「ナツに家に入り浸れたら困るから」



まぁ、もう勉強教えることもないと思うけどね。と独白を零すのを聞き逃さなかったが、返答を与えられなかった。代わりにつまらない言葉を返す。



「女子大生の住んでるの部屋が見たいだけだよ」

「相変わらず遊んでるんだね」



なんだよ相変わらずって。まぁ、遊んでることなは変わらないけど。

晶に言われると、なんだか釈然としない。


「ここからバスで15分くらい行ったとこにある公園があるんだけどね、その近くのマンションの7階」

「随分いいとこ住んでるな」

「1人だから、お父さんの知り合いに借りてるの。セキュリティとかが心配なんだって」

「ふーん。教えてくれたってことは行ってもいいってこと?」

「そんなこと言ってないよ」



晶は優しいから、その日の帰りに送ると行ってついていく俺に何も言わずただ苦笑していた。