「っわ、びっくりー」

「ごめんなさい……こちらもびっくりです」

「なになに照れてるの?かわいいね」

「どこか打ちました?頭ですか?」

「あははははーお前覚えてろよ」

「あなたの顔を脳に記憶するなんて自殺行為ですね」




笑ったら可愛い小さな顔、奥二重の茶色い双眼を俺に向けて、凛とした声でしっかり意見を伝えるのは昔から変わらない。


高校生の時、髪の毛を染めていると生活指導部の教員からしつこく言われつづけても一度も屈しなかった。そのおかげで今も綺麗なアッシュブラウン。



同じ色の瞳からは感情は汲み取れない。そしてその表情からも。


スタジオを出て通路へと続くドアを曲がってすぐ。急に現れた彼女は俺にぶっかった。


小さい頃は想像すらできなかった身長差と、体格差。随分、下にある身体にとっさに手を伸ばして受け止めようとしたそれは肩を支える。


だが、すぐに距離を取られる。



「お疲れ様でした。南月さん」

「ありがと晶ちゃん」

「下の名前で呼ばないでください」

「あきら」

「……なんなの」

「送ってくよ。どうせ同じとこに帰るんだから」



駐車場で待ってる。と言って、アッシュブラウンに手を乗せると静かに揺れた。



車のキーをくるくると指先で回しながらエレベーターまで優雅に歩く。


長い脚に体躯の良い身体。昔は脱色しまくって金に染め上げていたそれは綺麗な真っ黒。そして目鼻立ちの整った、色気のある顔。



ーーー人気モデル・南月



撫でられた髪をふわりと靡かせ、スタジオへ駆けてく華奢な背中。その手には大切に使っている機材。


それらを綺麗にケースにしまい、周りのスタッフにデータは後で送ります。と伝えると挨拶をして身を翻す彼女。



ーーー天才カメラマン・瑞木晶



2人は小学生からの幼なじみであり、現在の仕事相手。そして、家に帰ればお隣さんなのである。