優しい彼女の口から言の葉に乗せて届けられた棘は強く突き刺さった。


俺は、晶を守れない。


その資格すらも既に剥奪されていた身分だったのだと思い知らされた。



「じゃあ、気をつけて帰ってね、もう暗いし」



またね、とは言ってくれなかった。


目線も合わせずに話されたことは初めてだった。吐きたくなるほどに自分が嫌になった。


ただ黙って、家路へと急いだ。



「ねぇ、南月、晶ちゃん高校から女子寮に入るって知ってた?」



帰宅してすぐにそう問いかけられて、知らないよそんなことと逆ギレもいいとこにまた反抗した。


いつまでも晶に追いつけないただのクソガキだった。本当に、子供だった。


ふざけんなよ、自分だけ言いたいこと言いやがって何が女子寮だよ。

明日会ったら今日のこと言い返してやる。じわじわと湧く自分への怒りを無理矢理他人へと転換して落ち着かせていた。



しかし、その明日ですら俺には与えられなかった。



葬式が終わったその日、晶は姿を消した。

当たり前のような春休みを絶望と果てのない闇を彷徨うように過ごし、あっという間に俺は新しい制服に身を包んでいた。


晶のいない世界は晶のいないまま形成され、まるで身体の半身を削ぎ取られたような感覚すらあった。


相変わらず反抗期を拗らせていた俺は第3反抗期を迎え、髪を白に近い金髪に染め上げ、ボタンがあるにもかかわらず制服の前を開けっぱなしにしていた。


もし、晶がいたら「ナツ、それじゃ制服の意味ないよ」なんて笑いながらボタンを留めるだろう。


なんてありもしない妄想を浮かべて、一年二年とあっという間に時間は経過し、俺の中で晶は過去になっていた。


そして、俺は初恋というものを経験する。


高校二年の時の隣の席の女子である。まぁすぐに失恋したのでこの話は割愛しよう。

恋なんてするもんじゃねーなと思いながら進路を考えていた時、ふと浮かんだのは晶のことだった。


あいつはたしか、エスカレーター式の高校に行っていたはず。


ふらふらと帰宅した俺は金髪にしても何も言わなかった母親に晶の行方を問うた。


「ねぇ、晶ってどこの学校いんの?」

「なに反抗期終わったの?」

「まぁ、そんな感じ」

「あ、そう。晶ちゃんは多分渋谷の高校じゃないかな、あそこ成績いい子しか入らないから」

「ふーん、俺そこの大学行くわ」

「へー頑張って」



我が親ながら放任主義もいいとこである。しかしこの放置プレイに救われていたことも確かで、俺は黙って勉強漬けの毎日をそれから送ることになる。