母のほっとしたような顔をみて、俺はしてはいけないことをしたんだと子供ながらに学んだ。


きっと、知ってはいけない事情があるんだと理解し二度と口にしなかった。

それからも晶は優等生だった。


俺は、嫌いではなくなっていた。


帰り道、ばったり会ったふりをして泣かせないようにしたりもした。



「晶、家まで一緒に帰ろう」

「走ってきたの?暑かったでしょ」


人の目をみて話す晶といると嘘がつけなくて、素直に頷いた。

赤いランドセルの隣に並んで歩く自分のランドセルが誇らしかった。


「明日の理科の宿題やった?」

「そんなの忘れた」

「もう、ナツはいつも忘れてるじゃん、今日も一緒にやる?」

「やる、だから家こい」


小学生にして最高のナンパテクニックを持っていた俺は晶と2人きりになる術を知っていた。

反抗期ではあるが、先生に怒られることも大嫌いだった俺は晶と宿題をやることで晶との時間確保と、宿題の一石二鳥を手にしていた。


宿題が出るたびに、晶を家に呼び夕飯までの間自分の部屋に拘束していた。ストーカーに監禁に俺は相当やばいやつだったと思う。


夕飯を一緒に食べることもあったが、やはり隣の家で祖母が待っているということもありその機会は数回に留まった。


なぜ、母親ではなく祖母なのか。


疑問に思っていても決して口にしなかった。それを口にして問いた途端に、晶が目の前からいなくなってしまいそうな気がしたから。


それは、どんなに月日が経っても変わらなかった。


6年生へとなり、もうすぐ中学生となるある日。


冬が春へと変わる瞬間。


「ねぇ、ナツはどこの中学校にいくの?」

「晶と一緒のとこ」

「ほんと?よかったー、ナツがいなかったらどうしよって思ってたの」

「俺いなかったらどうしてたの?」

「たぶん、悲しくて泣いていたと思う」


俺は、晶の涙に相応しい存在になれていたことがとても嬉しかった。


そして、2人とも同じ中学へと進学し幼馴染としての順調な道順を進んでいた。