晶は友達と別れたあと、帰路とは違う道を歩くことがよくあった。


同じ方角に帰るのが嫌でいつも後ろをゆっくり歩いていたストーカーよろしくなら俺だけが知っていた事実だ。


夏の晴れたある日、その日も晶はワンピースを着て赤いランドセルを背負っていた。


その日もいつものように笑って、音楽の時間にはリコーダーを吹いて、算数の時間には一番早くに問題を解いて、わからないと嘆く子に教えてあげていた。


帰り道も、いつもの女子たちと一緒に帰り、途中でわかれた。そして帰宅コースへは行かず大通りの方へと歩き始めた。


ストーカー真っ最中な俺は、ほんの好奇心からその背中を追って行った。


たぶん、15分くらい歩いたと思う。


今はもういない、曾祖父の見舞いで訪れたことのある大学病院に着いていた。


迷うことなく受付にいき、まるでいつものルーティーンのように笑顔でありがとうございますと言い、エレベーターへと乗った。


ランドセルが目立つ白い空間でいたたまれなくなった俺はそこで踵を返した。


ただ、ざわざわと荒れる心を感じていた。


帰宅して、母のおかえりという言葉に久しぶりにまともに返事をした。



「ただいま」

「……なんかあった?」

「べつに」

「そう、ご飯あとちょっとでできるから」

「ねぇ、となりの家の晶が今日病院にいたんだけど」


ぽつりとこぼした言葉に、母が反応した。

大人の顔をして言った。


「学校でそのこと言っちゃだめよ」

「うん」


なんでかわからないけど、しっかりと頷いていた。


「だいたいなんで南月が病院なんて行くのよ、寄り道はしないで帰って着なさい」

「うるさいばばあ!」


そしてまた反抗した。