「えーっと、じゃあ席は…夏菜、お前の後ろの席だ。」
私を指さし、かつて旧友が座っていた席を顎でしゃくる。
そして彼女のほうを見ながら、あそこにすわって、と担任が言った。
「はい。」
ゆっくりとこちらに近づいてくる。
みんなの机の間をふわりとすり抜けながら向かってくる。
そして…
一瞬私の目の前に立つと、またあの笑顔になってからうしろの席に着いた。
「さあ授業始めるぞー」
少し顔がほてる。
目の前であの顔を見ると、だれでもきっとどきりとするだろう。
「…ねえ」
授業が始まり、ノートをとっていると、後ろから肩を小さくたたかれた。
振り向くと、困ったような顔をして芹沢さんが私を見ていた。
「?」
「筆箱…忘れちゃったの、貸してくれない…?」
「あ、うん、いいよ。」
私はすぐにシャーペンを取り出して彼女に渡した。
「ありがとう。」
「ううん。」
これが彼女との初めての会話だった。
すぐに黒板のほうを向き直りながら、転校生と初めて喋った生徒はもしかして私かもしれない、とどうでもいい優越感に浸る。
こんなにもかわいい子、友達になれたらきっと誇らしい。
私は彼女と話す自分を想像してわくわくした。
