それは
今までの苦しさとか寂しさとか
切なさとか辛さとか。
全部忘れさせてくれる
魔法のキスだった。
私は
雅人を突き放すコトも
キスを拒むコトもできずに
ただただ
幸せだったあの頃の思い出の中に
引きずり込まれて行った。
ガタン。
魔法をとかすかのように
その声が聞こえるまで。
「葵..ちゃん?」
今まで私を包んでいた腕を
突き放して、顔を上げた。
「春樹先輩...」
「なに..やってんだよ。」
先輩の口調は。
いつもよりすごく低くて
声からすごい怒りを感じた。
「先輩..」
私は何も言えなくて
近づいてくる先輩を見つめた。
次の瞬間。
今まで私の隣にいた
雅人の体が横に倒れた。

