私を惚れさせて。私の虜になって。

「き、きた…」

目に溜まっていた涙を乱暴に拭って、震える指で通話ボタンを押す。

お母さんからきた電話はもちろん、お母さんの声がする。

「もしもし?」

『菅原さんの娘さんですか?』

はずなのに。

「え?…あ、はい…」

聞こえたのは、

『今どこにいらっしゃいますか?すぐにここに…』

声の後ろからは叫び声とか泣き声とか、機械の音が聞こえる。

「あの…母は…」

『確認のためにも…ここに…』

「わ、私、今芝原高校にいて…う、動けない感じで、…あ、あのぉ、だからぁ…」

口が、回らなくなってきた。

『…そうですか。それでは…』

もう、なにも聞きたくないけど、電話の先が言うことに相槌を打っていた。

「はい…」

そう言って、電話を切る。

「お母さんは?」

「ダメ」

ずっと近くで話を聞いていた2人。

「…そっか…」