「父には分かっていたんだよ。僕が本気で戦えば、いつか人を殺めるって。僕も……本当は心の底では気付いていたのかもしれない……」


「……だから、その償いに人を助けるんですか?」


「僕はそれから、ずっと虚無感の中で暮らしてきた。そんな生活から抜け出したくて、今年再び大会にも出た。でも、虚しさは変わらなかった──そんな時、君に会ったんだ」


「わたし、ですか……」


「襲われていた君を助けた時、心に開いていた穴が塞がったんだ。初めて満たされた」


「それで、存在意義」


「きっと自己満足だろうけど……。それでも、報われた気がするんだ。人殺しのためじゃなく、人を助けるために僕の力はあったんだって思えたから」


先輩の言う虚無感は、私には想像すらできないほどに、大きくて深い……。


同じ経験をして同じ立場にならなければ、その人の気持ちを本当の意味で理解することはできない。
軽はずみに『大丈夫』なんて言えない。



だから……。




「……だから、君を……、あおいを、僕に守らせて」


そう言って、初めて私の名前を呼び、不器用に微笑む柏木先輩に言えることは────。



「……はい。守ってください。そのかわり、私も先輩を守ります!」


なんて、ありきたりな言葉だけだった。