しばらくは、静まりかえった裏路地を進んだ。


途中、3体のゾンビに遭遇したけど、危なげなく柏木先輩が倒してくれた。


このまま行けば、楽に先輩の家に辿り着ける。


そう思ったのに……そんな私の甘い考えはすぐに打ち砕かれてしまった。


大通りに差し掛かったところで、本当の意味でのこの町の惨状を目の当たりにしたから。


「ひでえな……」


「……そんな」


片側三車線の道路、歩道、民家、商店。いたるところで車が衝突、大破していた。赤々と炎を上げているものもある。


路上には、轢(ひ)かれたのかゾンビに喰われたのか判別のつかないグチャグチャの死体があちこちに転がっていた。



そして……。


「みんな動かないで!」


紫音先輩の声で、息を殺す。


当然のことながら、そこにはこの非常事態の原因、ゾンビもいるということになる。


近くを大柄な男性のゾンビが通り過ぎて行く。


見渡せば、大通り沿いはずっと先まで、右にも左にも多くのゾンビがふらふらと彷徨(さまよ)っていた。


「ここを、渡るの?」


澪が柏木先輩を見上げる。


「迂回しても、この道に繋がってるからね」


「また、学校の時みたいに?」


さっき転んだ校舎から校門なんかよりも障害物が多い場所を渡ると聞いて、澪の顔がみるみる青ざめていく。


すると、柏木先輩は、


「今回は、最初から僕が囮になるよ」


と、事も無げに言ってのけたのだった。