すると、武志の声を聞いたお調子者の幸希が「呼んだか?」と輪に入り、見て来たことを身振り手振りを交えて話しはじめた。


「そりゃあ、ものすごい火でさ。消防車に救急車だろ、パトカーも。全部で十台以上は来てたな。それにガスマスクと防護服来た連中までうろうろしてて、夜中だって言うのに祭りみたいに賑やかだったぜ」


「そうなんだ」


ニュースにまでなったということは、かなり大規模だったのだろうか。
疾病管理センターって伝染病の研究しているところだったかな?


ギリギリまで眠っていてテレビどころか、朝ご飯も食べ損ねた私にはいまいちピンとこない。
それに、まだちょっと体調も万全とは言い難いんだよね。


「あおい、まだ熱とかあるの?」


みんなが盛り上がっているのに反応が薄いからか、澪が顔を覗き込んでくる。


「うん。ちょっとね。一限目は体育だから保健室で寝てようかな」


そんなにヒドいわけじゃないけど、体育は休むつもりでいたし、見学よりは横になってた方が早く治る気がする。


「一緒について行こうか?」


「大丈夫。ひと眠りしたら治るよ。澪は、先生に言っておいて」 


心配そうな澪に笑顔を見せて教室を後にした。




廊下にでて階段にさしかかると、幼なじみの純也が下から上がってくるところだった。


「おはよう」


「ん? ……おお」


まだ寝起きなのかと思うほど、ダルそうに返事をしてくる。


寝癖のついた頭と、ひん曲がったネクタイ。まるでくたびれたサラリーマンみたいだ。


顔は悪くないんだから、もう少しちゃんとすればモテそうなのに……。
まあ、言ってみたところで、「余計なお世話だ!」って一蹴されちゃうんだけどね。


「はやく行かないと遅刻だよ」


「ああ。そうだな──で、そう言うお前はどこに行くんだ?」


「保健室」


「さぼりか」


「純也じゃないんだから、そんなことしないわよ。ちょっと体調が悪いの」


わざとらしく睨んでやると、「あっそ」と軽く流して階段を上がって行ってしまう。


まったく、幼なじみなんだから少しくらい心配してくれたっていいのに。


べーっと純也の背中に舌を出して、私は一階にある保健室へと向かった。