……なにも入っていない。


床を遠くまで見回しても、それらしいものはひとつもない。


「けいたい、落としちゃったみたい……」


また呆れられるかと思ったけど、今度はそうでもなかった。


「澪なんて、慌ててたから教室に置いてきちゃった」


「俺も無くした」


と、澪と純也。


「わ、わたしも、足を怪我したときに落としたみたい、です」


小百合まで、気を使ってるのか〈落とすのは変じゃない〉と遠回しに言ってくれている。


私は、いつからこんなにドジになったのだろう……。
親のメールアドレスを暗記していない以上は、武志の携帯電話を借りても安否確認はできない。



お母さん……。




すると、


「きっと大丈夫よ」


「……セン、パイ」


「私達が生きてるんだもの。私達を育てた親は、私達より賢いわ」


そう言って紫音先輩が慰めてくれた。


きっと、不安が顔にでていたんだろうな。


「いまは、自分のことを考えましょう。死んでしまったら、無事なはずのご両親が悲しむわ」


「……はい」



そうだ。お母さんはきっと無事なはず。
そう、信じるしかない。



それより、いま考えるべきことは〈私達が〉これからどうするかだ。


どうやって生き延びるかだ。