「それじゃあ、澪と純也が?」


「そう! 純也は小百合をおんぶしたまま、片手でだよ。ゴリラかと思った」


「お前らが軽すぎるだけだ」


まず、最初に気絶してからのことを聞いた。


澪と純也が私をここまで運んでくれたらしい。


その過程で幸希が噛まれるのを純也が見たらしいけど、それ以上はなにも語らなかった。


その後、開閉確認のため先行していた武志が体育館の扉を開き、みんなで逃げ込んだ。
ほぼ同時に、反対側にある小扉から紫音先輩が入ってきて両方の扉に鍵をかけた。


もし、体育館の扉に鍵がかかっていたら……。


そう思うと蒸し暑さも忘れて、ぶるっと寒気がした。


私達は今、深い谷の上を命綱なしで綱渡りしているのと同じなのだと……。




紫音先輩が言っている〈話し合い〉とは、この後どうするかについてで、私が起きるまで待つように武志が言ってくれたようだった。


紫音先輩の知っている情報は私達と同じで、浦高市が緊急避難区域になったこと、そして原因は国立疾病管理センターの火災だということだけだった。


「警察にはいまだにつながらないし、やっぱり自分達でなんとかするしかない」


携帯電話をポケットに戻しながら武志が首を振った。


そこで私はあることに気が付いた。


「あのさ、メールは? メールで誰か、親とかに助けを求めてみたらどうかな」


その言葉に、みんなが一斉にこちらに目を向けた。ただし、ポカンと口を開けて……。


「あおい! まだお母さんにメールしてないの!」


澪がビックリ顔で肩に手を乗せてくる。


「えっ?」


「えっ? じゃないよ。そんなの、みんなもうとっくにしてるよ」


「ええっ!?」


「いや、まさかしてないとは思わなかった」


武志も呆れ顔だ。
純也は首を振ってため息なんか吐いている。


「教室にいる時に、少なくともクラスにいた全員が試してる。返事はあったりなかったりだったな。どちらにしろこんな状況じゃ、親だって警察を頼るしかないんじゃないか」


確かに言われてみればその通りだ。いくら大人だって、一般人がゾンビに勝てないのは先生たちをみれば明らかだから。


「だけど、メールできるなら親に無事な報告はしといた方がいい」


そう言われ、またしても今更ながらに気付く。


お母さんは無事だろうか……。
いままで自分のことに精一杯すぎて考えられなかった。


お父さんは市外に勤めているから安全だと思うけど、お母さんは家にいるはず。
私は携帯電話を取ろうと胸ポケットに手を伸ばした。






けど……あれ?