陸上競技場から脱出した私達は民家の庭に身を隠していた。


純也が力技で囲みを突破してくれたおかげだった。


だけど、そのせいで……。
純也の身体は何カ所も噛まれ、全身傷だらけだった。


純也がゾンビになってしまう。死んでしまう。


「……どうしてよ!」


私は、横たわる純也にすがりついて泣いた。


「どうして私なんか助けるのよ!」


「うっ……、あんまり大声だすなよ。せっかく、逃げたんだ」


「だって……グスッ……」


「泣くなよ……」


「……だって、ううっ」


「……なあ、あおい。昨日の約束、覚えてるか?」


「約束……?」


昨日の夜……。


『純也って好きな人いないの?』

『──逃げたらな。浦高市から、脱出したら教える』

────確かに私と純也は約束をした。


もちろん覚えている……だけど、今はそんなこと──。


純也がおもむろに伸ばした手のひらが、私の頬に触れる。


おっきくて力強くて、たくさん私を守ってくれた手。


私はその手を自分の手で包み込んだ。


「なあ、あおい……」


「……」


「幸希はよ」


「……こう、き?」


……学校で死んでしまった幸希? 
でも、さっきからなんで、今そんなことを。


「幸希は、あおいが好きだったんだ」


意味が分からない。こんな時にどうして人のことなんか……。
しかも、そんな話。


「なんで、どうして……、こんな時にそんな話しするのよ。バカ!」


「っ……」


私が怒鳴ると、純也は声が頭に響くのか、辛そうに顔をしかめた。