──で、結局屋上にに来た。
普段、鍵がかかっていて開いていない屋上。屋上に入るには、先生の許可が必要だ。しかし、なんとも無防備な。一つ机が置いてあり、その机に乗って、少し高いところにある、人がギリギリ通れるくらいの窓をくぐると、屋上。
それにしても、瑠璃はどうして屋上の入り方を知っているのだろう。机も誰が置いたものなのか。不思議がいっぱいだ。
私と瑠璃は、屋上の柵の近くへ行く。
「やっぱ、綺麗だなー」
屋上からは、町や山などの景色を見渡すことができる。そこから、海も見えた。昼間の海は、太陽の光でキラキラ輝いていて、さらに美しい。
空は、近くなった気がして、雲がよりよく見える。青い空、白い雲、町や緑、輝やく海。屋上から見える景色は、私も瑠璃もお気に入りだ。
町の方を見ると、桜の花が風に乗って舞っている。ヒラヒラと。
「落ち着くーぅ」
私は、深呼吸をする。澄んだ空気。昼間の春風は暖かく、ちょうどいい。なんだか、また眠くなってきちゃった。
「なんか、あっという間だったな」
瑠璃は、空を見ながら言った。
「何が?」
「だって、もう中学生なんだもん。つい最近まで、小学生だったんだよ?ランドセルを背負って、学校に行って、勉強して、家に帰ったら、遊びに出かけて」
「小学生の時は、気楽だったもんね。勉強もゆるいし。帰るのも早くって、瑠璃は毎日のように家に来るし」
「えへへ。まぁ、いいじゃないの。あっという間だったなー」
「まだ、小学校の時の生活リズムが抜けないんだよね」
「あ、それわかる!しかも、クラスの人も全員はちゃんと覚えてないんだよねー」
「そうそう!もう、新学期が始まってから3週間も経ってるのに」
私と瑠璃は、綺麗な景色に囲まれながら盛り上がった。
小学校の頃を振り返って話すのは、中学に入って、今日が初めてだ。小学校では本当にいろいろあったと思う。瑠璃と巡り会えたのも、小学校が同じだったからだし、小学校には、たくさんの思い出が詰まっている。中学でも、もっと思い出ができるといいな。
それから、かれこれ20分。昼休み終了まで残り五分だった為、教室に戻る。
「ねぇ、あの人いいのかな」
「え?」
瑠璃が上を指さした。
屋上に入ってすぐのところにあるハシゴを上ったのだろう。水を貯めるタンクの隣の少しのスペースで、昼寝をしている男の子がいた。日の当たりがよく、とても気持ち良さそう。
「おーい。昼休み、あと五分で終わっちゃうよー!」
起こすのは少し可哀想だったが、私は、男の子に向かって叫んだ。
すると、男の子はムクっと起き上がって猫っ毛の茶色い髪を掻きむしった。大きなあくびをすると、ハシゴを使──わずに、私たちの目の前に飛び降りてきた。
「ありがとう、助かったよ。寝過ごすところだった」
「ううん、別にいいよ」
「えっと、花咲さんと華多さんだよね?」
ほぇ...?(また間抜けな声を...)どうして私たちの苗字を知っているのだろうか。
「なんか、わからなそうな顔をしてるな。君たちと同じ組なんだけど」
え、そうだったの!
私と瑠璃は、本当にクラスの人を覚えていないんだ、と実感した。
失礼なことをしてしまった。
「ご、ごめんなさい。人の名前を覚えるのが苦手で...」
「いいんだよ、別に。そういう人は、よくいるから」
や、優しい!なんて優しいんだ。こんな人を知らなかった私は、損だ。損してたに決まっている。
「えっと、野山宗介だっけ?」
「え、瑠璃知ってたの?」
「知ってたも何も、麻友の主席番号の一つ前が宗介君だよ」
「え!あ、あれ?ご、ごめん」
「あ、早くしないと理科が始まっちゃうよ。急ごう!」
私と瑠璃、そして宗介は、ダッシュで教室に戻り、荷物を持ち、またもやダッシュで理科室へと向かった(ギリギリ間に合った)。
