そして箸矢は喋る事を諦めた。 箸矢にとって運動が出来る人よりも勉強が出来る人よりも女の子にモテる人よりも喋る事が得意な人が憧れだった。 憧れは憧れで箸矢は諦めた。 黙っていよう。 誤解されよう。 喋る事の苦痛に比べたら勝手な噂話など大した問題ではない。 中学三年の冬から箸矢は家族以外の誰とも口を聴いていない。 いや「聴いていなかった昨夜の午後七時半までは」。 昨夜の午後七時半。箸矢は一年半ぶりに家族以外と口を聴いた。 「……」 自分の左上腕二頭筋に宿った涼風茶碗子と。