「……」
 涼風茶碗子は言葉が出なかった。
 明らかに大絶叫するべき場面なのだが、言葉が出なかった。
 茶碗子の豊満な右の乳房が、クラスメートである、箸矢涼の顔に変わっていたというのに……。

 意味不明。
 時間を戻す。

 とある木曜日の午後六時半。
 高校二年生の茶碗子はいつも通り帰宅し、いつも通り制服を母親に投げ捨て、いつも通り脱衣所に直行した。
 汗ばんだTシャツを脱ぎ、ブラジャーを外す。
 雪色のパンティ一枚になった瞬間、何かどこからか視線を感じた。

 視線を感じるという言葉は、一見曖昧に聴こえるが曖昧ではなく、不思議なもので人間の第六感というべきなのか、考えれば考えるほど不思議なことだ。

 視線の発信源は自分の右の乳房だった。そして左の乳房へ視線を感じた。右の乳房から左の乳房へ。視線が注がれている。何か視線が。

 だから茶碗子は、とりあえず右の乳房に視線を落とした。