フルネームを名乗ると、電話の向こうでがちゃんっと大きく音がした。
なにかが割れた、みたいな。
そんな音。
「え⁉︎ だ、大丈夫ですか⁉︎
なんか、いま変な音が……」
「あ、ご、ごめんなさい。 大丈夫です。
その、ちょっとグラスが倒れちゃっただけなので」
「そ、そうですか」
ほっと息を吐く。
でも、なんでグラスが……?
まるで、おれの名前に動揺したようなタイミングで……。
「あ、の! 三上、さん!」
「あ、は、はい⁉︎」
突然呼ばれた、自分の名前に大げさに肩が跳ねた。
電話口の向こうで、高い、けれど耳に馴染みやすいその声が、なぜか緊張したように強張って、
「わたし、高瀬美羽(たかせみわ)といいます!」
「え? あ、はい……?」
次の瞬間、
「三上蓮さん、よかったらこれからわたしと、毎日電話の相手をしてくれませんか?」
予想もしていなかった……いや、できなかった提案をされた。

