「まぁ、とりあえずパンドラ艦内の街で骨休めしてこい」

 ガウルのそのひとことにより、かみさまと万桜は休暇を貰うことになった。
 万桜は、かみさまに連れて行かれるまま喫茶店の中に入った。
 喫茶店の名前は、喫茶失恋(しつこい)。

「いいのかしら?
 私、入隊してすぐに休暇をもらっちゃったんだけど……」

 万桜が、そう言うとかみさまが、コーヒーを口に含みながら言葉を放つ。

「気にするでない。
 軍は、なかなか休みがもらえない。
 よって休めるときに休むのが吉だ」

「……そう……よね」

 万桜は元気なくうなずいた。

「なにか気になることでもあるのですか?」

 失恋のマスターが、そう言って優しい目で万桜の方を見る。

「えっと、貴方は……?」

 万桜が、マスターに向かって尋ねた。

「私は、マスターです。
 どこにでもいる喫茶店のマスターです」

「そうですか……
 よければ名前を教えて頂いてもいいですか?」

 万桜が、そう尋ねるとマスターがニッコリと笑う。

「私の名前は、マスター。
 それ以上でもそれ以下でもありません」

「……えっと」

 万桜が返答に困っているとかみさまが、言葉を付け足す。

「マスターの名前は、マスターだ」

「そう……なの?」

「ああ」

 万桜の問にかみさまがうなずいた。

「はい。
 まぁ、外で出逢っても気軽にマスターとでも呼んで下さい」

 マスターが、そう言ってホットケーキを万桜に差し出す。

「あ、美味しそう……」

「マスターのホットケーキは、そこらの喫茶店より美味いぞ」

 かみさまが、そう言って笑うとコーヒーを一口飲む。

「これは、私の奢りなので気にせずに食べてくださいね」

 マスターが、ニッコリと微笑む。

「ありがとうございます!」

 万桜は、笑顔でホットケーキを口に運び言葉を続けた。

「美味しい!」

 万桜の顔がニンマリと笑った。