かみさま。
 万桜の中に淡く残る記憶。
 かみさま。
 その名前を知っている。

「大神 神……」

 万桜は、その言葉を繰り返す。

「うむ」

「大神……神……」

「そうだ」

「ごめん。
 覚えてない」

 万桜は、苦笑いを浮かべた。

「忘れたのであれば仕方がないな。
 なら、これから覚えるといい。
 余の名は、大神 神。
 余のことは親しみを込めて、かみさまと呼ぶといいぞ!
 改めてよろしくな!柊 万桜!」

「ええ……
 よろしくね。大神くん」

「うむ。
 では、この再会を祝してカレーパーティーをしようじゃないか。
 しゃも爺。モッツァレラスビーフカレー4つ追加だ」

 かみさまが、そう言うとキッチンから初老の男が現れる。

「なんじゃ?
 その奇妙奇天烈な名前のカレーは……」

 初老の老人はそう言って眉を潜める。

「カレーにモッツアレラチーズとステーキを乗せてくれ」

「偉い豪勢なカレーじゃな」

 老人はそう言って笑う。

「ああ。
 もちろん余の奢りだ」

「気前がいいのぅ。
 じゃが、今日はワシの奢りでそのカレーを馳走してやろう。
 その新米さんの就任祝じゃ」

「それは、ありがたい。
 では、大盛りで頼む」

「わかった。
 カレーもステーキも特大サイズのヤツをやろう」

 自分と老人の会話に入れない万桜をさっしてかみさまは、その老人を紹介した。

「この老人は、しゃも爺。
 この食堂のオーナーだ。
 昔は、凄腕のフェアリー使いだったが、今は引退している」

「あ、ありがとう。
 しゃも爺さんお世話になります」

「『しゃも爺』でいい。
 『さん』は、いらぬよ。
 万桜ちゃんじゃったな?ここでの仕事はつらいこともあるじゃろうが頑張るんじゃぞ?」

 しゃも爺の言葉に万桜はうなずく。

「はい!
 ありがとうございます」

 万桜は、ニッコリと笑った。