婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~

葛城夫妻の部屋を出ると、私はトボトボと歩いて自分の部屋へと向かう。

覚悟はしていたものの、何だか改めて「結婚」という現実を突きつけられて気持ちが少し重くなってしまった。

何も考えずに自由に恋愛している同世代の人たちが羨ましい。

それが普通なんだよね、きっと。

私は小さく溜息をついた。

「遥!」突然呼びとめられて私はビクリと痙攣する。

「こんな所にいたのか、さがしたぞ」

振り向くと葛城が立っていた。

さっきまでこの人の話をしていたので、なんだかお腹いっぱいで顔も見たくない気分。

「なによ、何か用?」

ついぶっきらぼうな言い方になってしまう。

「なんだよー相変わらず可愛気ゼロだな」

葛城は不満気に眉根を寄せる。

「ちょっと、俺の部屋に来て」

私の返事を聞かずに腕をグイグイ引っ張って強制連行される。

相変わらず強引だけど、疲れているので抗う気持ちにもならない。

葛城の部屋は私と同じ造りのシングルルームだった。

しかし、きちんと整頓されていて、荷物でごった返している私の部屋とは大違いだ。

「で、何なのよ」

私は不機嫌を隠そうともせずにベッドに腰掛ける。

さっきまで愁傷にしていた私が、息子の前ではこんな尊大な態度をとっていると知ったら葛城夫妻もビックリだろう。

「はい、これ」

葛城は上品なゴールドのリボンのついた細長い箱を手渡してきた。

「なにこれ?」

「いいから開けてみて」

リボンをソロリと外して、箱の蓋を開けてみる。

中からキラキラ輝くネックレスが姿を現した。

「どうしたのこれ…?」

驚いて私は尋ねる。

「この間のお詫び。ホラ失礼なこと言っちゃったから」

葛城は小さくコホンと咳払いする。